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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)299号 判決 1953年9月11日

名古屋市西区松西町二丁目二八番地

早川房太郎方

上告人

船橋一郎

右訴訟代理人弁護士

岩川勝一

同市同区同町二丁目二二番地の三

被上告人

伊藤〓三

右訴訟代理人弁護士

下田金助

右当事者間の家屋明渡請求事件について、名古屋高等裁判所が昭和二五年七月一八日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差戻す。

理由

上告代理人弁護士岩川勝一の上告理由第一点について。

借家法第一条の二にいわゆる「正当事由」の有無を判断するに当つて同法第三条第一項所定の期間経過後の事実の如きは、それが解約申入当時から当然予見され或は存続する等特段の事情の存しない限り、之を当該解約申入につき参酌すべきではないと解するのを相当とする(当裁判所昭和二八年四月九日第一小法廷判決参照)。ところが、原判決は、本件解約の申入は昭和二三年一一月四日被上告人に到達した書面を以て為されたものであるとの事実を認定した上その正当事由の有無を判定するにあたり、解約申入当時の上告人の生活状態のほか、解約期間後である昭和二五年二月以降の事情を詳細に認定し、之等を綜合して結局右解約申入の正当性を否定し、第一審判決を取消して上告人の本訴請求を棄却して居るのであるが、右判定に際し特に「解約申入当時の事情と現在の事情とは大にその趣を異にしている」等と説示して居ることからすると、原判決は前記解約申入についてはかりに、其の申入当時の状況からして正当事由があるものとしても、其の後の事情変動によつて結局正当性なきに帰したものである旨を判定したものと解するのほかはない。されば原判決は前記法令の解釈を誤り適用したものと謂うべきであつて、此の点に関する論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

よつて、その他の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇七条一項に基き本件を原裁判所に差戻すべきものと認め、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

昭和二五年(オ)第二九九号

上告人 船橋一郎

被上告人 伊藤〓三

上告代理人弁護士岩川勝一の上告理由

第一点 原審判決理由に

名古屋市西区松西町二丁目二十二番の三東向三軒長家の内南端の木造瓦葺平家建家屋一戸を控訴人は被控訴人の前主堀部勝義から被控訴人主張のような条件で借受け居住中昭和二十三年八月二十五日被控訴人が右堀部から右家屋を買受けて右賃貸借を承継したことは当事者間に争がなく被控訴人から控訴人に対し同年十一月四日到達の書面を以て本件家屋の賃貸借解約の申入をしたことは控訴人が明かに争はないところであるからこれを自白したものと見做すべきである。

そこで右解約の申入につき借家法第一条の二にいわゆる正当の事由があるかどうかにつき考察を加える原審証人早川房太郎、同早川奈を、当審証人早川奈を、同安田武男の各証言によれば被控訴人はその妻及一子と共に妻の両親たる訴外早川房太郎、同奈をの居住する名古屋市西区松西町二丁目二十八番地の一戸へ数年前から同居し云々。

ところが検証の結果及当審証人安田武男の証言によれば右房太郎は昭和二十四年中前記房太郎の住家に隣接せる同所同番地の家屋一戸を所有者堀部勝義から房太郎の長男早川金一及娘婿岩田宗一名義を以て買受け昭和二十五年二月初居住者安田武男から明渡を受け云々。

前記の如く右二戸の家屋には全部で八畳四室ありそれに工夫によつては起居の目的に使用しうるバラツク建六畳の一室と二階四畳半の一室があるところから見て適当に工夫すれば右全員の居住に必しも狭隘を感ずる筋合でなく此の点被控訴人主張の本件解約申入当時の事情と現在の事情は大にその趣きを異にして居るものと云はねばならない。

と判示し借家法第一条の二の正当の事由がないとして上告人に敗訴を言渡した然れども上告人が解約の申出を為したのは昭和二十三年十一月四日であるから同日より起算して六ケ月の経過は昭和二十四年五月四日に当る。

前記証人安田武男が早川金一、岩田宗一に家屋を明渡したのは昭和二十五年二月初である借家法第一条の二の正当の事由があるかないかを確定する時期は解約申出により賃貸借契約が終了する昭和二十四年五月四日である。

本件は右の如く昭和二十四年五月四日の到来により賃貸借は解約して終了したもので賃貸借契約は存在せない、然るに原審は昭和二十五年二月初めに安田武男が隣家を明渡したから事情が変化して居ると判示したのは既に消滅した契約が復活することとなるにつき原審は法律の解釈及適用を誤まつて居る故に原判決は破毀さるへきものである又本件家屋は上告人に於て自ら使用するから明渡を求めて居るのに原審は此の点の判断には一言もなく只借家法第一条の二の正当の事由の場合のみを取り上げ居るは審理不尽であるから違法である。

第二点 原審は判決理由中に

ところが検証の結果及当審証人安田武男の証言によれば云々房太郎の長男早川金一及娘婿岩田宗一名義を以て買受け昭和二十五年二月初居住者安田武男から明渡を受け云々。

前記の如く右二戸は工夫次第で全員居住し得るから明渡を求むることは失当で正当の事由とはならないとの趣旨に認定した。

然るに検証の目的となりたる家屋は安田武男が其所有者である早川金一及岩田宗一の両名に明渡したる家屋で上告人は該家屋に対し所有権、賃借権がない上告人に使用収益の権限なき家屋である、此の家屋を安田武男が明渡したから上告人が直ちに工夫して使用し得ると断定し正当の事由なき解約の申出にして其效力が生じないと認定したるは其認定を誤りたる違法がある。

以上の理由により原審判決の破毀を求むる。

以上

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